幕間5.5





「今まで見てきたのは、本当にソラノナカマチなんでしょうか?
どれもこれもソラノナカマチなのに、どれもこれも違う場所だ」


「あなたが知っているソラノナカマチとは違いますか?」


「ええ。私の知っているソラノナカマチは、年に二度だけ開かれる大きな市でした。
普段は何も無い場所にいきなり大きな市が立つので、
〈空の中街〉ソラノナカマチと言われていました。
古今東西のありとあらゆる品が集まっていて、
手に入らない物は無いと」


「そこで買わなければならないものが、あったのですね」


「ええ。
私は彼女のために何種類もの、
使いきれないほどたくさんの薬を
買い集めていたのです。
不治の病と宣告された彼女に、何か一つでも効くものはないかと思って。
あそこで手に入らないものはない。
でも、品物の数も膨大で、一回の市では探しきれるものじゃありませんでした。
何度も買いに行きました。でも市は年に二回。
その間にも彼女の病状はどんどん悪くなっていく。
そんなとき、ソラノナカマチである老婆が、
時を止める力があると教えてくれたんです。
万能薬や、特効薬が見つかるまでは、
症状が進行しないように彼女を眠らせておくことができると」


「それを使って、彼女の時を止めたんですか?」


「……はい。薬が手に入ったら、
もう一度彼女の時を進めるつもりでした。
でも彼女の時を止めた時、私は流れ星を見たのです。
それは、願い事をかなえてくれるようなものではなく、
さっき見たような、大粒の月の涙だったのです。
私は何か大きな間違いを犯したのかもしれないと思いました。
でも、後には引けません。
がむしゃらに稼いで、市が立つたびに薬を買いに行きました。
何度でも、何度でも。
そしてようやく、私は万能薬と言われるその薬を手に入れることができたのです。
だから今度は、時をもう一度進める力が必要でした。
またお金を稼いで、次の市まで待ったのですが、
その時に定期券を失くしてしまって……」


「どうして失くしたのか、思い出せませんか?」


「……それは何度も考えてみたんですけど、
わからないんです。そこだけポッカリ記憶が抜けたみたいに、思い出せない。
あの時私は確かに、定期券を持っていた。
でも駅で、何かがあった。そう思えてならないんです。
何が起きたかは、思い出せません。
ただ、記憶にあるのは、散らばった荷物と、茫然とした自分だけ。
その時にはもう、私の手に定期券はなかった」


「本当に、手渡したんじゃないんですね?」


「……はい」


「定期券を手にしたら、何か思い出すかもしれません。
とりあえず今は、あなたがその手に持っている
月の涙のしずくを渡していただけませんか。
それ、落し物ですから。

大丈夫ですよ、
それはあなたの彼女のために流された涙ではありませんから」












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