「何を拾っているんですか?」
「落し物です」
「落し物?」
「ええ、私は拾遺物係ですから。
この定期券に関しての落し物は、私の管轄なのですよ」
「その、紙きれも落し物ですか?」
「まあ、普通の紙きれなら拾ったりしませんが、
これはほら、字が書いてあるでしょう。
そういったものは保管しておく規則なのです。
落とし主が取りに来ることは、ほとんどありませんけどね。
さて、先を急ぎましょう。定期券は別の人に手渡されてしまった」
「そうだ、そうですよ!
どうして定期券が手渡されていくのを黙って見ていたんですか?
ちゃんと名乗り出て取りに行けば……」
「彼らに私たちの姿は見えていませんよ。
声も聞こえません。無理に奪い取ろうと思っても無駄ですよ。
彼らとは、世界が違いますからね、行ったところで無駄なんです。
定期券は時期が来れば、必要であれば、必ず手渡されます、
あなたが本当の持ち主ならね。
私たちに手渡されていないなら、まだ時期ではないか、
本当の持ち主ではないということです。
さあ、次へ行きましょう」
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